Amebaの公式トップブロガーには、さまざまな分野の専門家も存在しています。今回の特集では「プロフェッショナルなブロガーたち」にフォーカス! なかなか知ることのできない業界のリアルな現場のようすから、参考にしたい専門家ならではのアドバイス、プロとしての仕事論まで幅広くお話をうかがいます。
第3回目は、「外科医でママで、こっそりオタク」という唯一無二の個性を持つ、自称“腐女医” さーたりさんへのインタビューをお送りします。
36時間勤務に28時間の手術…24時間ではおさまらない医療現場
公式トップブロガー運営局(以下、運営局):私事で恐縮ですが、医療ドラマを見すぎているため外科医というお仕事に興味津々です! まずは平均的な勤務スケジュールを教えてください。
さーたりさん:病院の勤務体系は、昼間の勤務(日勤)と夜病院に泊まって仕事をする当直の2つで構成されています。最近は当直明けには早く帰れる場合もあるんですけど、昔ながらの勤務体系の病院で当直がある日は、たとえば診察が朝8時開始だとすると…
- 当日の日勤:朝8時〜夜8時=12時間
- 当直:夜8時〜朝8時=12時間
- 翌日の日勤:朝8時〜夜8時=12時間
トータルで36時間病院にいることになります。
運営局:ひえ〜! 1.5日まるまる勤務状態…
さーたりさん:当直中でも入院患者さんに異常もなく、急患も入らなければ睡眠をとることもできますが、何かあったときのために常に構えている状態です。
運営局:当直の間じゅう、何事もないことなどまれな印象です。
さーたりさん:科にもよります。小児科、一般内科、循環器科などは夜中もかなり忙しいですが、私のいた消化器外科は内科の診察を経て手術が決まった方の対応になるので、夜中でもひっきりなしに患者さんがいらっしゃるという事態はそれほど頻繁ではありません。とはいえ緊急手術が必要な場合もありますので、そのときは無事に終了するまで起きています。
運営局:想像以上にハードですね…。勤務中に何度も手術をすることもあると思いますが、1度の勤務時間内で最多何回の手術をしたことがありますか?
さーたりさん:全身麻酔を必要としない軽度の手術を含めれば、かなりの回数になります。全身麻酔が必要な手術だと、当直中に2回、日勤中に2回、計4回がこれまでの私の経験で一番多い回数です。
運営局:症状にもよるでしょうけれど、1回の手術はどれくらい時間がかかるのでしょうか?
さーたりさん:手術全般を平均化するのはなかなかむずかしいですね。
私は消化器のなかでも肝臓専門なので、肝臓に限っていえばほかの消化器に比べて手術時間は長いです。これも手術内容によりますが、だいたい6~8時間くらいはかかります。私の経験でもっとも時間がかかったのは肝臓移植手術で、28時間かかりました。ずっと同じドクターではなく交代で執刀するんですけどね。朝手術室に入り、終わって出てきたときには翌日のお昼だった…といったかんじです。
運営局:医療ドラマで何十時間ものオペシーンがありますけど、リアルに何十時間もかかる場合があるのですね。
医療ドラマ見すぎな質問続きで恐縮ですが、大学病院ではドラマで描かれている大名行列のような「教授回診」って実際にあるんですか?
さーたりさん:ありますよ。私がいた大学病院の科では週に2回。カンファレンス(医師、看護師全員で患者さんのことを話し合う会議)が終わったあとに入院中の患者さんを教授が回診するんです。
教授が入る前に研修医が病室のドアを開けたり、それぞれの担当医は教授に聞かれたことを何も見ずに答えたり。教授回診に当たったドクターは、自分が担当している患者さんの前日のようすから当日の体温まで、こまかく把握して憶えておかないといけないんです。記録しているノートやパソコンを見ながらではダメなんですよ。
運営局:かなりのプレッシャーですね。そしてまさにドラマの世界!
さーたりさん:ドラマはだいぶ誇張されていますけれど、教授への気遣いや廊下を歩いているようすは、だいたいあんなかんじです。
運営局:ドラマ見すぎついでにもう1ついいですか? よく、外科と内科が対立しているような描写もありますけど、実際にはどうなんでしょうか?
さーたりさん:科は違えど同じ医者で、協力し合って患者さんを治すという目標も同じですので、対立ということはありません。ただ、内科と外科では立場や見識も違いますから、治療方針で意見が食い違うことがあったりはします。
運営局:すべては患者さんのためを思ってのことですね。ちなみに、忘れられない患者さんの思い出はありますでしょうか?
さーたりさん:本にも書いたのですが、当時の私と同じ25歳で亡くなった患者さん、手術前検査を何度やってもがん細胞が見つからずに発見したときには手遅れだった患者さん…
私たちの力が及ばなかったがゆえの悲しい思い出は、いつまでも心に残っています。がん細胞は見つからなかったけれどその可能性が考えられる、そこで手術をすべきか否か…担当医の間で意見が分かれるところでもありますし、本当にむずかしい判断を迫られるのです。
運営局:まさに命をあずかるお医者さんという職業ならではの、むずかしいところですね。
感染させないためのマスク、感染しないための手洗い
運営局:最近、感染症の歴史について勉強されているというブログを拝見しました。専門外の質問ですが、新型コロナウイルスとは今後どう付き合っていくのがいいでしょうか?
さーたりさん:しっかり習慣化されている方も多いと思いますが、とにかくマスク着用と手洗いは徹底してください。
マスク着用は「自分がうつらないため」ではなく、「人にうつさないため」という意識が大切です。新型コロナは無症状のケースもありますから「自分がコロナかもしれない」「身近にコロナの人がいるかもしれない」という万が一の意識です。治療方法もワクチンも未開発、検査の精度も未知数といった状況では、用心しすぎてもしすぎるということはありません。
たしかに感染力は強いウイルスですが、新型コロナは空気感染するものではないとされています。ウイルスを持った人との接触で感染するものなので、そういう人と密に接触したり、飛沫でウイルスがついた何かに接触したりして感染するリスクはあります。それを回避するためにも手洗いの徹底は本当に重要です。
運営局:お子さんは手洗いをイヤがりそうですが…
さーたりさん:小学校、保育園、幼稚園では手洗いを熱心に教えてくれているので、最近は子どものほうがしっかり手洗いできている印象です。とはいえ、イヤがるお子さんもいらっしゃるでしょうから、以前、私のブログで紹介した「手洗い歌」を試してみてはいかがでしょうか?
▼さーたりさん考案! 「こどもにもわかりやすい正しい手洗い歌」
あとはお子さんが気に入っているお人形さんを使って「一緒に洗おうね」とうながしてあげるとか。
それでもダメな場合は、ひとまずアルコール消毒をしてあげるなど。ただ、アルコール消毒は水が使えなくて手洗いできないときの一時的な対処法でしかないので、お子さんには時間をかけてでも手洗いを習慣づけてほしいです。子どもは大人よりも無防備ですから、大人がしっかりと守ってあげないとですね。
コロナだけじゃない。熱中症と食中毒のリスクにも意識高く
運営局:まだまだ暑さが続く季節は、コロナ以外にも熱中症や食中毒なども心配です。それらの対策も教えていただきたいです。
さーたりさん:マスクが欠かせない分、熱中症のリスクはたしかに高くなりますので、今年はコロナと同じく熱中症もこわいですね。
先ほども言いましたが、コロナは空気感染するものではないので、環境省や厚生労働省が推奨しているように「屋外で人と2m以上、十分な距離が離れているとき」、つまり周囲に人がいないときはマスクを外しましょう。その場合、外したままうっかり人混みに行ったりしないよう心がけることも忘れないようにしてくださいね。
※イラストはさーたりさんと3人のお子さんのイメージ
運営局:熱中症もこわいとおっしゃりましたが、具体的にはどのような危険があるのですか?
さーたりさん:コロナに感染する確率よりも、コロナを恐れすぎて熱中症にかかってしまう確率のほうが高まるという意味で危険です。
周囲の状況を見ながら適宜マスクを外し、こまめに水分補給すること。さらに、気温や湿度が高いときは外出を控えたり、室内でもエアコンを使ったり換気をしたりしながら、コロナと熱中症対の両方の対策をしていただきたいです。
運営局:食中毒対策はどうでしょうか?
さーたりさん:食中毒も今年は特に注意が必要ですね。こちらもコロナの影響でテイクアウトが増えている分、暑さのなかで持ち歩いていると食中毒のリスクは高まります。
ですから、自分で保冷剤や保冷バッグを持って買いに行くとか、自宅に帰る直前や自宅近くで買うとか、お店も注意してくださっているとは思いますが、買う側にもこうした工夫が必要だと思いますよ。
産休・育休のブランクを埋めたい。理想の外科医像を求めて転職を決意
運営局:先日、勤めていた大学病院を辞められたとブログに書かれていましたが、決意した理由を教えてください。
さーたりさん:自分で手術をできる回数を増やしたかったのが一番の理由です。
大学病院を辞めて転職活動を始めようとした矢先、コロナの影響で活動は止まってしまいましたが、先日からようやく再開することができました。
運営局:新天地の病院でのご活躍を願っています! 最後に、お医者さんとしてのさーたりさんの目標をお聞かせください。
さーたりさん:外科医になっておよそ18年になりますが、途中産休と育休をはさみましたので、しっかり医師業に向き合えたのは子どもが生まれるまでの12、3年。子どもが生まれてから復職しては、これまでどおり当直ができなかったりしていますので、外科医としては不完全燃焼だという思いがあります。子どもを産んで育てていることには誇りを持っていますが、外科医としてのブランクはまだ埋められていないという意味で「不完全燃焼」なんです。
20年近くのキャリアを重ねると現役を退いてしまわれる方もいらっしゃいますが、私は不完全燃焼のまま外科医を辞めたくない。外科医としてもっと手術のスキルを磨きたいし、たくさん手術をしたいので、そうできる場所を見つけるために大学病院を辞めたんです。
大学病院で専門性を突き詰めた分、私が外科医になろうと決めたころに目指した外科医の理想像からは、ずいぶんかけ離れていきました。その結果、一般的な消化器外科医としてはまだ半人前でしかありません。ですから、肝臓やすい臓だけでなく、胃や腸も含めた消化器全般を手術することができる外科医になりたいです。これが私の目指す理想です。
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手術の範囲が広がり、回数も増えることで、より一層の知力・体力が求められる…外科医として大変な道を選択したさーたりさん。
それでも「大変だからつらいこと、楽だから楽しいこととは思っていません。自分の知識が深まったり広くなったりすることは大変ですが、私にとってはそれが楽しいことなんです(笑)」と、明るくも力強く語る言葉からは真に“医者道”を極めようとするさーたりさんの強いプロ意識を感じました。
【「外科医でママで、こっそりオタク」さーたりさんの魅力が詰まった著書】
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